癌で胃袋を失い生きる希望を失いかけた男が、一夜にして元気を取り戻した物語
お盆休みに、京都へ行った。
川床料理が売りの
高雄もみぢ家別館「川の庵」に泊まる。
夜の宴は、豪華だった。
BGMは、川のせせらぎだ。
生ビールを頼んだ。
ビールを飲むと、食が進んだ。
普段の1.5倍ほど食べることができた。
以前、これを主治医に伝え、
毎日ビールを飲んでもいいかと尋ねたら、
「やめた方がいい」という当たり前の返事が返ってきた。
しかし、このくそ暑いを通り越した猛暑の中、
ビールを楽しまないのは、人生の損失だ。
ビールが運ばれてきた。
3対7の見事な黄金比のきめ細やかな泡の一粒一粒が、
電球の灯りで、光っていた。
しばらく泡が収まるのを待つ。
ビールは、泡を口に入れると
舌にまとわりついて、苦みが後まで残る。
液体だけを一気に喉まで流し込むことによって、
ビールのうま味が身体全体に拡がっていく。
泡が収まった。
ジョッキーを唇まで運ぶ。
唇をジョッキーにつける。
そこから一気にジョッキーを傾け、
液体をのどに流し込む。
「く ~ ~ ~ ・・・」
猛暑の中、汗を絞り出された全身の細胞が、
液体の流入を敏感に感じとっていく。
身体全体で感じるこの最高の味が、
身体のダルさを忘れさせてくれる。
料理は、一品一品とても丁寧に作られていた。
和牛が出てきた。
十分に厚みがあるうえに、
少な過ぎず多過ぎず霜が降ってあった。
固形燃料が陶板を十分に熱するのを待ってから、和牛を置いた。
いい音がした。
油がはじけている。
あま~い匂いが食欲をそそる。
真夏の肉は、劣化しやすい。
レアが好きだが、無駄な下痢は避けたいので、
6面全て赤が見えなくなるまで焼いた。
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