癌で胃袋を失い生きる希望を失いかけた男が、一夜にして元気を取り戻した物語
味付けは、塩味のみ。
私の最も好きな食べ方だ。
箸でつまみ、口に運んだ。
真ん中からおもいっきり噛んだ。
(うまい! うまい!! うまい!!!!!!!)
言葉が出なかった。
顔から笑みがこぼれた。
(おいしいって、最高だな~・・・)
胃袋が無くなっても、
肉を食べることができるのは本当に幸せだった。
よ~く噛んで食べれば下痢もしない。
酒も飲むことができる。
飲んでるとき、食べてる時は、身体を動かさなくてもいい。
だから、かみしめていた。
飲んで、食べることを。
翌朝、京都から実家の金沢へ向かった。
この日も暑かった。
京都も、金沢も異常な暑さだ。
手術後初めての帰省だった。
父は、6年前に亡くなっていた。
私と同じ胃癌だ。
見つかった時は、ステージⅤ、
胃の全摘手術を行ったが、すでに全身に転移していた。
手術後、10ヶ月で旅立っていった。
父のこともあり、母は私の具合をとても心配していた。
「体調どうや」
「なんともないかいね・・・」
「うん、だんだんよくなっとるわ・・・」
しかし、母の目はごまかせなかったようだ。
「てっちゃん、疲れやす-なっとんがやないけ・・・」
お盆休みの最終日、
「今日は、どこへ行く?」
と妻が聞いてきた。
「え・・・」
だるさが限界に来ていた。
京都から金沢、
昨日の晩遅くに
渋滞に揉まれながら藤沢の自宅に帰ってきたばかりだ。
「ランチくらい食べに行こうよ」
「う、うん・・・」
「あなたの食べられるものにしよ!」
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