若者はこう生きろ。ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で全国大会に出た話
僕はU先生の言葉に、どこか懐かしさを覚えた。
僕は、すでにU先生がいったことを理解していた。
以前、サッカー部の1年生であったころ、練習に行くのがいやでいやでたまらなかったことがある。
それは、しんどい練習をやらされるからだ。ところが、最近は練習がいやだと思ったことは一度もない。練習のしんどさは、遥かにフットボールの方が上であるにも拘わらず。
僕は、キャプテンになったときから、みんなをまとめて、部を強くするという責任を持たされた。
そして、その責任を自覚したときから、練習に行くのがいやとか、しんどいとか、思うことが不思議なくらい一切なくなった。サッカー部のときとは大きな違いだった。
もし、キャプテンでなかったら、練習がしんどいと思うときがあったかも知れない。役職が人を作るというが、そういうことかも知れないと僕は思った。
やらされていると思うか、自分からやっていると思うかによって、こんなにも自分の気持ちが違うものかと驚いた。
やることはどちらの場合でも全く変わらないのに。
そのことを僕は、U先生の言葉で再確認した。
「分かった。まかせといて」
僕は元気よく返事をした。
それを聞いてU先生は
「うしよ。考え方は変えることができるんや。他人は相手の考え方を絶対にコントロールできひん。でもな、唯一自分だけが自分の考え方をコントロールできるんや。そんで、どんなことでも自分の考え方によって取り組み方が変わるんや」
「苦労した経験は将来、がけっぷちに立たされたときのくそ力になるんやで」
「ほな、頼むわ」
と分厚いくちびるをほころばせた。
21.たまには、休息も必要
練習は死ぬほど厳しかったが、たまには練習が休みの日もあった。そして休み前の練習が終わったときには、開放感で一杯になった。
明日は練習がないと思うだけで、何か得をした気分になる。どんな些細なことでも楽しめるように思えるのだ。
休み前のある夏の日、僕らは練習が終わってからグランドでバーベキューをすることにした。
そのときすでに1年生も入部しており、たまにはみんなで楽しい思いをしようということになったからだ。
練習が終わって、U先生が帰った後、僕らは行動を開始した。さすがに、グランドでバーベキューをすることはU先生にはいえなかった。僕たちはランニングで近くの店まで買い物にいくことにした。
買った材料は学校にばれないように、山際にあるグランドの裏手の入り口から運ぶことにした。M、X、I、Kが買いだし班だった。
買い物に出かけて1時間くらいして、買出し班が帰ってきた。
「肉と、野菜いっぱいこうてきたで。ほら見てみい」
Iが自慢げにいったので、手元を見ると、何と両手に店の黄色い買い物かごをぶら下げて立っていた。
「お前、それ、店のかごやろ。やばいんとちがうん」
隣にいたZが驚いて、とがめるようにいうと
「ほな、どないして持って帰ってくるんや」
Iは子供のように、むきになって反発した。
Iたちが買出しから帰ってきたときには、すでに僕は火を起こす準備を完了していた。子どもの頃ボーイスカウトに所属していたことがあり、飯盒炊爨はお手のものだった。
グランドに浅く穴を掘って、石ころを集めて周りに置く。Yの字をした木の枝を山から取ってきて、穴の両端に立てて、これに金棒を渡して飯盒をかける。
みんながそろって、いよいよ穴に棒を渡そうとしたところへ、背後から突然声がした。
「おまえら、そこで何をしとんのや」
野球部の顧問の先生だった。辺りは暗くなりかけていたが、運悪く見つかってしまった。
僕は、一瞬ビクっとしたが、
「グランドが固いので耕していたんですが、ここは特に固いので、いつの間にかこんなに掘ってしまいました」
「また、埋めときますから」
とっさに口からでまかせをいった。
「そうか。ご苦労やな。もう暗いからはよ帰れよ」
そういうと、先生はさっさと職員室の方に歩いていった。そして、すぐに闇の中に消えた。僕は胸をなでおろした。先生が行ってしまったのを見届けると、早速穴に入れたたき木に火をつけた。
続いてグランドの横を流れているせせらぎで、家から持ち寄った米を洗うと、いよいよ飯ごうを火にかけた。
幸い風が無く、火は、ちょろちょろと調度いい具合に燃えていた。
「吹いてもふたをとったらあかんで」
「昔から、赤子ないてもふたとるな。というやろ」
僕は得意になってみんなにいった。
「お前、じじくさいこと知っとるなあ」
Yが感心したように答えた。
「それから、炊けたら飯盒は裏返してしばらく置いておくんや」
「そしたら、良く蒸れるんや」
「ほう・・・」
こんな調子で、僕らはわいわいと楽しい時間を過ごした。
誰かがみごとに炊き上がったご飯を食べながらいった。
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