若者はこう生きろ。ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で全国大会に出た話
「このめし、魚が入っとるで」
見ると、ご飯の上に小魚がはりついていた。不幸にもせせらぎの水に混ざって掬い上げられ、ダシにされてしまったのである。
街の明かりが消える頃、僕らは、満天の星に見送られて家に帰った。
22.あきらめなければ夢は叶う
夏休みが終わり、秋の県大会が始まった。初戦は、大川高校だった。
この試合は春と同じようにGとZが快速を飛ばして走り回り、Yが要所要所で確実にパスを受けて47対0で大勝した。
そして次の試合。第一試合で、陽星高校が梅宮高校に負けたので、また因縁の梅宮高校との準決勝となった。
二週間後の10月3日、梅宮高校のグランド。空がどこまでも高く、秋晴れのさわやかな日だった。時折ふあっと風が吹く絶好のコンディションである。
三木高校のキックオフで試合が開始された。梅宮高校自陣30ヤードからの攻撃。ファーストダウンは、Tフォーメーションから、やはりねずみがオフタックルをついて3ヤード前進。
次に、右オプションからフェイクを入れたクォーターバックが、後ろからついてきているねずみにボールをピッチしようとして、これをピッチミス。転々と転がるボールを三木高校のディフェンスエンドのとんぼがその長い手で押さえた。
レフェリーの笛とともに、攻守交替が告げられた。幸運にも敵陣20ヤードから三木高校の攻撃となった。
ファーストダウンの攻撃。Mから、Yへの12ヤードのフックパスが決まり、あっさりとダウン更新。
敵陣8ヤードからのセカンドダウンの攻撃。右プロのビア体型から、クイックピッチを受けたGがディフェンスの外側を走りきってタッチダウン。その後、僕のキックも決まり、開始3分で7対0とした。
これで調子に乗った三木高校は、その後もYへの40ヤードロングパスをKが決めて、前半を13対0で終了した。ただ、僕の蹴ったトライフォーポイントのキックは、ブロックされて失敗していた。
前半を終わって、控室となっている教室に帰ってきた三木高校の僕らは口々に
「何や、たいしたことないやん。楽勝や」
といっていた。僕も同じ気持ちだった。
10分後、後半戦が始まった。三木高校の攻撃からのスタートだ。クォーターバックのMは、Gの快速を活かすために、右のピッチアウトをコールした。
「レディ、セット、ダウン、ワン、ツー」
スナップされたボールは、Mから即座にGにピッチされた。
いつもならここで、Gが快速を飛ばして大外から守備選手を抜き去ってしまうはずだった。
が、今回は違っていた。あっさりと、梅宮の守備選手にタックルされてしまった。Gを警戒した梅宮のディフェンスバックがパス警戒を捨てて、前方に上がってきていたのだ。
こうなると、もうランニングプレーは出ない。そこで、次のプレーにMは、Gと同じサイドにYを出して、右側奥深くへのパスを選択した。次のプレー、Mの投げたボールは、敵陣深くに走りこんだYめがけて飛んでいった。
しかし、本来真ん中奥を守備するセーフティが、ディフェンスバックの抜けた右奥へ回り込み、このパスも阻止された。フットボールの守備体型にオールマイティはないが、こうなると先手を取ったほうが有利になる。三木高校は守備で先手を取られたのと、前半楽勝の気の緩みから、攻撃が出なくなっていた。
そして、梅宮の反撃が始まり、ねずみ以外のランニングバックにも、思うように走られた。3本立て続けにタッチダウンをとられ、ついに第4クオーターには21対13と逆点されてしまった。僕たちは浮き足だっていた。
梅宮のキックオフをMがリターンして、自陣20ヤードからの三木高校の攻撃。1回目のZのギブはやはり出ない。
フットボールは個々の選手の精神面の掛け算のスポーツだ。
選手一人ひとりの役割がはっきりとしている反面、その相乗効果によりプレーが完成するからだ。みんなの気持ちが少しでも負けに傾くと、それが何乗にもなって現れる。
気持ちの先行する怖いスポーツだ。
情けないほど僕らのヘルメットは下がっていた。ここでU先生はがまんしきれずにタイムアウトをとった。僕がサイドラインに呼ばれた。攻撃のタイムアウトであれば、普通は司令塔であるクォーターバックのMが呼ばれるはずだが、このときU先生は僕を呼んだ。
U先生はそこで具体的な作戦は何もいわず
「お前らの実力はこんなもんと違うはずや。夏の厳しい練習をやってきた自信があるやろ。春に関西学院大学の教室でおまえらはどないゆうたんや」
「夢をあきらめへんというたんやで。前を向け」
「ハドルにもどってみんなにそういえ」
とだけ、厳しい口調でいった。まるで自分にいいきかせているようだった。
僕は、ハドルにもどって、そのとおりみんなに伝えた。
「春に、夢はあきらめたときに終わるとみんなでいうたな。ここで、あきらめたら夢は終わる。今まで何のためにしんどい練習をしてきたんや。分かったんか」
「そうや。そうやった」
「あきらめたら夢は終わるんや」
負けん気の強いYが、真っ直ぐに顔を上げた。
僕らの頭の中に関西学院大学の教室が蘇った。
「俺らがなんで都会のぼっちゃんに、負けなあかんのや」
Iが悔しそうに奥歯をかんだ。
「よっしゃ、死んでもやったる」
ハドルの中で僕らの声が大きく重なった。
僕らはヘルメットを上げた。
次のプレーでMは、Gが警戒されているので、オプションで自らボールを持って走ることを選択した。
「俺が絶対走る。ラインは死ぬ気でブロックしてくれ」
いつもは穏やかなMが珍しく、激しい顔をしていった。
「よっしゃ。まかせとかんかい」
XとIが、大きく目を見開いて答えた。
この二人は本気になると、とてつもない力を出す。
著者の岩崎 吉男さんに人生相談を申込む
著者の岩崎 吉男さんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます