若者はこう生きろ。ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で全国大会に出た話

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 翌日から、3年生は本当の引退をした。

部は、2年生の新キャプテンNYを中心に練習を再開した。一方、僕たち3年生には受験勉強が待っていた。

 

 

23.お世話になった人に礼を尽くす

 

卒業式の日が明日に迫った。

裏山から時折吹く風に仄かな梅の匂いがする、そんな日だった。

 

フットボール部の僕らは、狭い部室に集まっていた。乱雑に転がっているスパイクやショルダーパットが狭い部室をよけいに狭くしていた。

「明日でお別れやなあ」

誰かがぼそっといった。

すると

「いままで世話になった人に恩返しせなあかんな」

とIが真顔でいいだした。

いかにも義理堅いIらしい発想だ。

「何か送り物でけへんか」

「うーん。そういうても金ないしなあ」

「ただのもんはないんか」

「どうせただで配るやつとか・・・」

そうIが尋ねたとき

「さっき体育館に行ったら、明日の紅白饅頭が積んであったけどなあ」

Zがなにげなくそういった。

「それや、」

それを聞いたIは、思わずその場で手をたたいて小躍りした。そして

「どうせ、俺らがもらうんやから先にもろうて、お世話になった人に配ったろ」

「明日はそんな暇ないし」

といいだした。

「うっそ・・・」

それを聞いてみんな絶句した。

が、すぐに

「どうせもらうんやからええか」

ということになってしまった。

僕らはフットボールバカだった。

フットボール以外では、あまり深く物事を考えない。

「俺らの他にも饅頭なんかいらんという奴がおるやろ」

「そいつの分ももらおうや。俺がいうたる」

Iが親分肌を見せた。

「そうや、それがええ。文句いうやつは俺がしばいたる」

「お礼に使うたというたら、先生も怒れんやろ」

Kの目が輝いた。

 

結局、自分の紅白饅頭はいらないという仲間を集めて、その分を先に使わせてもらうことになった。

3年生に聞いて回ると50人程が饅頭を寄付するといいだした。

そこで、こっそりと体育館に忍び込み紅白饅頭を先に50個いただいた。

これを、学校からの帰り道、お世話になった人に配った。

 

先ずは、校門のすぐ近くにある駄菓子屋さん。フットボール部の僕らは練習が終わって帰る途中にいつもこのお店に寄っていた。

そこで、パンや、ジュース、それにするめを買って食べていた。特にするめは甘酸っぱい味付けで美味しかった。

「おばちゃん、長い間お世話になったなあ。俺らは明日卒業や。それで、これお礼の印やけど、取っといてえな」

Iが紅白饅頭を差し出した。

「おおきに。これからさびしなるな」

店のおばさんは、びっくりしながらもみんなに感謝した。

それから、Iと僕はバスに乗った。田舎のバスなので、運転手さんはいつも決まっていた。Iはいつもこのバスを利用していた。

僕は、自転車通学なので、バスを利用したこともないし、運転手のおっちゃんも知らない。

Iがお礼をいうのに一人では失礼だと、変な理屈で、一緒にバスに乗せられたのだ。

「おっちゃん、世話になったな。俺は明日卒業式や。もうこのバスに乗ることないと思うんや。これ、感謝の印や。取っといてえな」Iが、大真面目な顔をして紅白饅頭を渡した。

「おおきに。家に帰ったら、かあちゃんと一緒に食べるわ」

顔が丸くて人の良さそうな運転手さんはうれしそうに答えた。

「ああ、そや。最後の挨拶やからうちのクラブのキャプテン連れてきたんや。こいつ、うしというんや」

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