ハイスクール・ドロップアウト・トラベリング 高校さぼって旅にでた。

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恋は終わってしまっても、物語は終わらない


3学期には、Aさんは成績を落として、志望校を変えてしまった。


ぼくは、もうワンランク上のK高校を受験するという選択肢もあったし、ランクを下げてAさんの志望校を受験するということももちろんできたけど、当初の目標通り、T高校を受験することにした。


Aさんといっしょにがんばろうと思って始めたこの受験というスポーツを最後までやりとげる。

やりとげて、それからもずっと、いろんなこととしっかり向き合って生き続ける。

Aさんを好きというこの素晴らしい気持ちを忘れずに持ち続けて、もっと成長して強く素敵な男になりたい。


物語は終わってしまっても海は終わらない

ー寺山修司


ぼくはこの言葉が好きだ。


恋の物語は終わってしまっても、想い出は終わらない。

ぼくの物語は続く。

Aさんへの片想いの初恋をぼくは一生忘れないだろう。


自分を変えよう。

将来、人生をふりかえったときに、ああ俺の人生が変わったのは、あの恋愛がきっかけだったんだと、思い出せるように、いまを人生のターニングポイントにしよう。

あのAさんに恋した気持ちが、自分の人生の中で大きな意味を持てば、「Aさんとの恋は終わらない」と考えた。






海が好きだったら


水に何を書きのこすことが

できるだろうか

たぶん何を書いても

すぐ消えてしまうことだろう


だが


私は水に書く詩人である

私は水に愛を書く


たとえ

水に書いた詩が消えてしまっても

海に来るたびに

愛を思い出せるように


ー寺山修司







意味のない高校入学


高校合格発表の日。

バスにゆられてぼんやり考えていた。

試合終了だ。

ここまできたら、もう落ちてようが受かってようが、どっちでもいい。

ここまで成績をあげて、このスポーツを全力で戦いぬいた。

それだけで目標は達成したみたいなもん。

合格はしていたいけど、合格しようがしまいが、これでぼくの受験勉強という名のスポーツは試合終了。


高校合格に意味はあったけど、入学には意味がなかった。

合格後、T高校に通うことはハッキリ言えばぼくにとっては無意味。

目的のないことだ。


合格者の掲示板に自分の名前を見つけたとき、心は静かだった。

まわりの中学生たちが大喜びしているのを醒めた目で観ていた。

これから始まる新しい生活の中で早く自分の進路を、いかに生きていくかを見つけなければいけない。






高校生活はいままでとは違い友達がすぐに出来て、いきなり面白かった。

部活にも入った。

部活の仲間とみんなで遅くまでだべったり、バーベキューしたり、ああこれが青春かなと思う日々だった。


「とりあえず」この日々にどっぷり浸かって楽しもう。

みんなと同じ「フツーの高校生活」を楽しんでやろう。

勉強も、平均点を取れる程度にはやってみることにした。


楽しくて忙しくて、あんなに好きだった本も読まなくなり、悩み事も何もなかった。

可愛い女の子も多くて、新しい恋もやがてはじまりそうだった。







寺山修司との出会い



そんな1年生の夏休みに、図書室で「ひとりぼっちのあなたに」というちょっと恥ずかしくなるようなタイトルの本を見つけた。

寺山修司という人が書いた、メルヘンチックでロマンチックだけど心の痛みに触れてくるような、胸に沁みるエッセイや物語、詩だった。


わが夏をあこがれのみが駈け去れり麦藁帽子被りて眠る

ー寺山修司


もっとこの人の本が読みたいと思って本屋さんで手にしたのが「家出のすすめ」という文庫本だった。


家を出ることによって、家の本当の意味に気がつく。

そこから自分なりの家、そして人生をゼロから始められる。


人生を変える衝撃を受けた。


家という言葉はいままでの「日常」にも置き換えれると思った。

日常から外に出ることで、いままでの日常の本当の意味に気がつく。

そこから新しい人生が始まる。


ぼくにとって「日常」はいったい何かと考えると、それは「勉強」なのではないかと思った。

勉強するのが当たり前。

毎日学校に通って、宿題をして、受験をして大学に行く。

勉強から始まる人生のレール。

レールから外に出ると、いったいどうなってしまうんだろうか?

新しい景色が見えるかもしれない。

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