ハイスクール・ドロップアウト・トラベリング 高校さぼって旅にでた。

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話し終わった途端、大きな拍手が起きた。

驚いた。

何か伝わったかもしれない。

すごく嬉しかった。

すぐに授業終了のチャイムが鳴ったので、50分間一人でしゃべり続けたことになる。

こんな経験も人生で初めてだ。


「さ、やりたいこともやったし、勉強もがんばらなな!」

先生はそう言ってホームルームを締めくくったけど、やりたいことをやったらなぜ勉強をがんばらないといけないのか不思議に思った。


「オレも今度、旅に行くわ」

ホームルームのあと、クラスの男子達から声をかけられた。






他のクラスの顔見知りや剣道部の友人、いろんな人から旅のことで話しかけられるようになった。

特に女の子から話しかけられることが多かった。


ほとんど話したこともない、密かに憧れていた女の子からも話しかけられた。

美人で積極的で太陽なような性格の彼女に、いきなり目を合わせて

「ダーリン、旅の話しを聞かせて」

なんて言われた日には、旅に出て本当によかったと思った。


何も褒められることを成し遂げたわけでもないけど、ぼくの想い、ぼくの行動が、こんなにも学校のみんなに響いている。

そのことがものすごく嬉しく、手ごたえを感じた。






つかの間の日常


旅から帰ってきたぼくは今度は逆に「高校生活」をあらためて真面目に満喫することにした。

遅刻も早退もしなくなった。

毎日キチンと学校にいく。

しっかり授業を聞いて勉強する。

部活に励む。

クラスのみんなで秋の文化祭には演劇をするというので、ぼくは大道具係として参加した。

自分たちで脚本を書いて演出もして、夜遅くまで練習したりミーティングしたりした。

クラス一丸となって良い演劇ができたと思う。

その打ち上げのカラオケも楽しかった。

部活の友達と、泊まりがけのスキー旅行に行ったりもした。


日々が、青春の一コマのような毎日。

絵に描いたように楽しい学校生活。

高校1年生に時計の針が戻ったようだった。






ふたたび訪れた平穏な日常が過ぎ去り、高校2年の3学期。

大学受験の足音が聞こえる。

進路をどうするか。

みんな考え始めた。

先生との進路面談もはじまった。

ぼくは正直に自分の気持ちを先生に伝えた。

「勉強にやる気が出ません。受験勉強したくないです」

笑われたけど、ぼくは本気だった。


「高校を中退する」と宣言し、学校に行くのを辞めた。






もともと、この高校に合格はしたかったけど、入学したいわけではなかったのだ。

実は入学したときから、卒業までに辞めるかもしれないと思っていた。














中学3年生。
ぼくはクラスのみんなが飼いならされた犬に見えた。


ぼくは小学校のころは学校の勉強が楽しくて、「算数おもしろ大辞典」みたいな本を親に買ってもらって一生懸命読んでいるような子どもだった。

授業中にみんなでじっくり問題を考えたり、自分の意見を言ったり、子ども達でお互いに教え合ったり、そんな時間が楽しかった。


だけど、中学校に入ると、だんだんじっくり考える時間は少なくなり「暗記させられている」と思う時間が増えていった。

ぼくは、なぜその答えが出たのかという理屈を考えるのは好きだったけど、ただ暗記するのは好きではなかった。


だんだん勉強に興味が持てなくなって、ぼくの中学校の成績は中学1年からずっと右肩下がりだった。

だけど、最悪でも平均よりも上ぐらいはキープしていた。

その理由は、友達もいないし、やりたいこともないし、読書と勉強以外にやることがなかったからだ。






会話がうまく合わない。

共感できない。

趣味も感覚もあわなくて、クラスメートの輪に入っていけない。

一番孤独だった中学2年生のお昼のお弁当は、毎日一人で食べていた。


友達がいないので、休み時間は孤独で暇でしょうがない。

「とりあえず」宿題なのどやらなきゃいけないことをやった。

宿題が終わると、楽しそうに話すクラスの中に一人ぽつんと、浮いているような状況が恥ずかしかった。

本が好きだったけど、好きな本を机の上にひろげて読んだりするほど、明らかにみんなと違う行動をするほどの勇気もなかった。

どうしようもなくて、本当にやることがなくなってしまって、しょうがないから「とりあえず」寝たふりをした。


苦痛すぎて、休み時間なんてなければいいと思っていた。

日々、自分が死んでいるようだった。

世界と比べると日本は平和で豊かだし、家族もよい人たちで、何不自由なく恵まれた人生を歩んでいるはずなのに、こんなにも息苦しくて、生きている気がしない。






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