ハイスクール・ドロップアウト・トラベリング 高校さぼって旅にでた。
友達よりも先生よりも親よりも誰よりも、ぼくにとって本の中の山田かまちが最大の理解者であり応援者だった。
かまちはぼくの中で生きているも同然だった。
とにかく毎日、彼の本を広げて眺めては、心に響いてくる絵や言葉からエネルギーをもらっていた。
山田かまちに夢中になって、かまちのように感じて、かまちのようにたくさんのことをやって、かまちのように人生を美しがって生きたいと思っていた。
「激しく生きたい」と思っていた。
☆
だけど、激しく生きるにはどうすればいいのか、ずっとわからなかった。
わからないけど、少なくとも自分がいま「激しく生きていない」ことだけはわかる。
ずっとそうだった。
君にはこんな経験はないか。
つまり、自分のしなくてはならないことが何かあるのがわかっていて、
しかしそれが何なのかははっきりつかめない。
そんな経験はないかい。
おれにわかるのは、何かをしなくてはならないのだということで、それが何なのかよくわからない。
時がくればわかるだろうが、おれは本物をつかむまでやるんだ。わかるかい。
ージェームス・ディーン
☆
やっと来れた。
言葉に言い表せないこの5日間。
人生、何が起きるかわからない。
毎日、どうなるか何もわからない思いつきの旅。
毎日が未知の冒険。
きのうの不良少年との出会い。
奇跡は起きる。
だからこそ面白い5日間だった。
☆
こじんまりとした美術館、毎日眺めてきた絵や言葉の実物が展示されていた。
ぼくにとっては、ここにこういうやり方で辿りつけたことに大きな意味がある。
山田かまちの命日は17歳の8月10日。
奇しくも、ぼくの誕生日と同じ。
17歳までに来れてよかった。
いま、かまちの情熱とともに新しい人生へと向かおうとしている自分がいる。
このときのことは、旅から帰ったあとレポートとして高校の授業で提出した。
☆
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「山田かまち水彩デッサン美術館芸術鑑賞レポート」
ぼくは、この美術館へ学校を休み、家を飛び出して、一人旅をしてたどり着いた。
飽きた日常から逃げ出して。
かまちの作品に出会ったのは、中学2年のときだった。
14歳、ぼくはたくさんの夢を見、旅に外国に憧れていた。
しかし、それらは何一つ経験とならず、実際に起こらなかった思い出として胸の奥にしみ込んでいくだけの毎日だった。
そんなとき、かまちの作品は「精一杯生きてゆけ」という「もう一人の自分」からの魂の叫び声のように感じられた。
だがぼくは、方法を持てなかった。
かまちに共感するだけで、そこから人生を変えていくには、どうするかわからなかった。
作品『乞食は夜泣く』がこの美術館では一番印象に残ったと思う。
かまちは「勉強しないと乞食になるよ」とよく祖母に言われていたそうだ。
だが彼は高校受験に失敗し浪人し、中学3年のときにはテストを紙ヒコーキにして投げたという。
「乞食」はかまち自身の落伍者としての姿であり、「夜泣く」ところが彼の苦悩を表していると思った。
かまちのこんな言葉も覚えている。
「高校に行くほど、だんだんぼくはバカになっていく」
あれだけ、やりたいことの多かったかまちにとって高校はどんな場所だったのか?
勉強は?
そして当時の受験システムは?
かまちは、きっとそれらの問題に勇ましく立ち向かって行ったと思う。
激しく。
17歳で事故死せずに生きていたなら。
とても残念に思う。
ぼくは今、16歳。
もうすぐ17歳になる。
「どうすれば、人生を燃焼できるのか?」
美術館は、思ったよりずいぶん小さかった。
だけど、絵はとてもみずみずしかった。
受付の女性とは、たくさん話し、ポスターも戴き、大変親切にしていただいた。
書き込みノートにもぼくの想いを書かせてもらった。
ぼくは、そのノートに、自分はもう、かまちに共感しない。
何もしない人生から出て、積極的に生きていく為、あの頃の自分に、悩むかまちにさよならをすると書いた。
しかし、勉強・進路のことで両親と言い争い、こうしてこのレポートを書いていると、山田かまちが愛おしくてたまらなくなってくる。
ぼくの将来は漠然とし、ぼくは漠然と生きてきた。
どうして人生は思っていたよりこんなにも退屈なのか?
そう思いながら。
今回、ぼくはすべての日常を捨てて旅に出た。
それは、ぼくの日常への質問だった。
「このままの人生でいいのか?」
突然学校を休んで1週間の旅だった。
たくさんの出会いがあった。
とても疲れた。
この旅は、ぼくからぼくへの挑戦状だった。
ときどき、こんな風に感じることがあった。
「ぼくがぼくになる」
ぼくは、もっと世界に質問したい。
世界の素晴らしい可能性を確かめるため。
人生には、答えは無数にある。
しかし
質問はたった一度しか出来ない。
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