【第八話】『旅人になった日』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
不意打ちよりはマシだが、
本当に真っ向勝負になったら、100%負ける戦だ。
僕の運命は、前からやってくる車のドライバーにかかっている。
僕は、そのドライバー達に自分の存在を知らせながら歩いた。
ムダに大きな動作をしてみたり…
車道寄りに歩いてみたり…
ドライバーに熱い視線を送ってみたり…
僕の運命を握るドライバーに自分の存在を知らせた。
しかし、決まって返ってくるのは、
「なんでこんなとこ歩いてんだ…こいつ…」
という冷たい視線だった。
「道」とは元々人が歩くために造られた道である。
しかし、幾年もの時を超え、文明が発達した今、
人の歩くスペースなど全く無い。
人が自由に歩く権限は無い。
そこに僕の居場所は全く無かった。
恐るべし…文明…
生きた心地のしないまま、そんな道をしばらく歩いた。
でも、悪いことばかりだった訳じゃない。
歩いていたのは山の峠道。
山の中なのだ。
交通量は結構あったが、道の周りは緑が生い茂っている。
「こんな緑を見たのはどれくらいぶりだろう?」
現地の人にとっては、緑があるなんて当たり前のことかもしれない。
僕の地元にも、結構、緑はある。
でも、こんな風に全身で緑を感じたのは本当に久しぶりだった。
それだけ周りを見る余裕が無かったのだ。
木があって、草が生えて、花が咲いている。
こんな当たり前のことを忘れてしまっていた。
だからこそ、見るものすべてが新鮮で、キラキラ輝いて見えた。
「こっちは紅葉がもう始まってるんだな。」
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