【第八話】『旅人になった日』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
そりゃそうだ!
見ず知らずの変な格好をして、
「日本海まで歩いて行きます!」
なんて訳の分からない言葉を発する奴が家に来る…
なんて思ったら、誰だってギョッとする。
「うち寄ってけ!」
なんてテレビの世界かと思っていたが、現実に存在するんだなぁ。
もう少しおばさんと話をしてみたかったが、
僕には時間がない。
日が暮れれば、悪党ドライバー(決して悪党ではないんだけど…)の餌食になる。
「ありがとうございます!」
「でも、今日のゴールまでまだまだなので…」
とお断りをした。
「えらいわねぇ。」
褒められて嫌な気持ちはしない。
僕は何だか、この旅が正しいことに思えてきた。
ここまで独りで決めて、独りで準備して、独りで実行してきたけど、
本当は正しい決断なのか、どうなのか自分でも分からない。
本当は誰かに背中を押して欲しかったんだな。
「おばちゃん、ありがとう!」
あの夫婦は、葬儀場から出てきた。
きっと大切な誰かを喪ったのだろう。
大切な人を喪い、悲しい思いをしているのに、
見ず知らずの人に、
「うちでお茶でも飲んでいかない?」
なんて言えるだろうか?
僕ならきっと自分のことでいっぱいいっぱいで、
他人のことなんて構っていられない。
でも、そんな時にこそ誰かのために何かが出来るのが、
優しさってものなんだと思う。
何となくぼんやりとだけど、何か大切なことに気付けた気がした。
夫婦と別れ、僕はまた歩き出す。
甲州街道。
左手に川を見ながら、山の中を歩く。
ただひたすら。
スタートから10㎞くらいだろうか。
事件が起きる。
著者の坂内 秀洋さんに人生相談を申込む
著者の坂内 秀洋さんにメッセージを送る
メッセージを送る
著者の方だけが読めます