【第八話】『旅人になった日』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
ストックのキャップが紛失した。
排水溝の蓋に、ストックがスッポリと入り、
その拍子にキャップが取れてしまったらしい。
排水溝の蓋にストックがハマると、
後ろからグッと引っ張られたように、急に体がのけ反る。
歩くリズムが一瞬で途切れてしまう。
何度も何度も排水溝にハマった。
調子よく歩いていたのに、何度も足止めをくらう。
ずっと歩き続けるより、止まって歩いてを繰り返す方が遥かに疲れるのだ。
仕事をしていても、普段運動はしていない。
しかも、この2ヶ月間くらいは家で寝転んでいるだけの生活だった。
体力がどんどん消耗していく…。
さらに足が痛くなってきた…。
僕は、足の裏にグリップの付いた五本指ソックスを履いてた。
ネットで、歩くのはそれが一番いいと書いてあったから。
しかし、そのグリップのせいで、足の裏が痛い。
完全に情報に踊らされている…。
新しい靴だったため、靴擦れも出来てきた。
足が痛くなったら、酷くならない内に手当てをするのが賢明だとネットに書いてあった。
先も長いため、恐らくこの情報は正しい。
少し広いスペースのあるところを探し、僕は休憩することにした。
荷物と靴、靴下まで脱ぎ、少しでも体を休ませる。
応急処置はバッチリ!
ストックのキャップは先のどこかで買おう。
ゴール変更!目的地は大月…
そして僕はまた歩き出す。
ひたすらひたすら歩く。
流れるように移り変わっていた景色はここでは全く変わらない。
出口も、入り口さえも見えない道をひたすら歩いた。
「今、どれくらい歩いただろう?」
Googlemapの使い方が分からない僕は、
今自分がどこにいるのかさえも分からない。
ただ一つ分かるのが、大月カントリークラブまで、12㎞だということ。
電信柱に広告の看板に、
「大月カントリークラブまであと12㎞」
と書いてある。
「大月カントリークラブまであと10㎞」
「大月カントリークラブまであと8㎞」
いつまで経っても、
大月カントリークラブ…
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