【最終話】『僕の宝物』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
家に帰るのが少し怖かった。
彼女が戻って来ているかもしれない!
と思ったりもした。
でも、それはない。
既に合鍵も送り返されている。
それでも…
可能性の無い選択肢を受け入れるのが怖かった。
「すべてを受け入れなきゃ。」
家に向かった。
誰も待っていない僕の家に。
10日ぶりに鍵を開ける。
偶然にも、鍵のメーカーが「GOAL」だった。
思わず笑った。
今まで全く気が付かなかった。
誰もゴールテープなんて張って待っててくれないから、
「GOAL」という文字を目にして、嬉しくなった。
出迎えられているようで、少し嬉しくなった。
鍵を開け、部屋に入る。
やはり誰も居なかった。
今まで知らない土地で「一人」だったのに、
今は家で「独り」だ。
ゴールしたらご褒美が待っているとでも思っていたのかな。
誰も居ないこの部屋で、
僕はまた、あの時を思い出した。
「なんでうつ病になっちゃったの…?」
そんなの分からないよ…。
あの時、別れを選んだのだって、
分かんないよ…。
でもね、そのおかげで、僕は旅をすることが出来たんだよ。
知らなかったことを知って、
感じられなかったことを感じて、
気付かなかったことに気が付くことが出来たんだよ。
あの時、君との別れを選んだから、
たくさんの優しさに触れ、
家族の大切さを知り、
友達の大切さを知り、
今の僕に出逢えたんだよ。
「ありがとう!」
こんな素敵な機会をくれて…
僕と出逢って、僕を好きになって、
僕を支えて、僕と一緒に居てくれて…
ありがとう。
僕もそろそろ別の道を歩こうと思う。
君の居ない世界を。
それで…いいよね…?
それが…いいよね…?
その答えは、まだ分からないかもしれない。
ずっと先になってから分かるんだと思う。
この旅だって、正解かどうかは分からない。
今はね。
でもいつか、
「あの時やって良かったな!」
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