【第11話】『生きた証を残して』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

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常に人の顔色を伺い、頭をフル回転させてきた。


しかし、そのせいで心が壊れた。



心が落ち着くように、精神安定剤を処方された。


勘違いしている人が多いが、


精神安定剤は、心が落ち着くための薬ではない。

不安感や絶望感を拭い去り、明るくなれる薬ではない。


脳の機能を低下させ、物事を考えさせられなくするものだ。

不安感や絶望感は元より、感情そのものを感じさせなくなるものなのだ。


だから常に頭がぼーっとする。


何のやる気も起きなくなる。


しかし薬が切れると、さらに強い不安感や絶望感に襲われる。

それどころか、薬が無いと生きていけないという、劣等感や罪悪感がプラスされる。


薬では、何も解決しない。

薬でうつ病は治らない。



「ただ歩く」



一つのことに集中し、無心になることが、

どんな薬よりも効果のある精神安定剤だった。




あわてないあわてないひとやすみひとやすみ



休憩は大切だ。


ザ・田舎と思えるようなバス停があった。





足の痛みが増してきた僕は、そこで少し休むことにした。




反対側の車線に、車が駐車出来る仮眠スペースがあった。









「あわてないあわてない」

「ひと休みひと休み」


こんな看板が立ててあった。




僕は仕事の繁忙期を思い出した。


僕の仕事は個人事業主の確定申告の代行だった。

年末から、3月いっぱいまでの間、

平日は毎日終電まで、土曜日出勤はもちろんのこと、日曜日も出勤して、

期限内で全ての顧客の確定申告の手続きを行う。


社内で営業成績がトップだった僕は、

2年目の初めて自分でやる繁忙期で、顧客数が400人を超え、

上司や先輩たちよりも、顧客数が多かった。


本来なら、初めての繁忙期は多くて200人くらいだが、

その倍以上の顧客数をこなさなければならなかった。


僕は常に焦っていた。


初めての繁忙期。


要領なんて分からない。


元々要領がいい訳でもないし、分からないことだらけだった。


だから、とりあえず人よりも多くのことをやるしかなかった。


そんな時、同じ課の先輩からよく言われた。


「あわてないあわてない」

「ひとやすみひとやすみ」


僕が時間に追われ、引きつった顔をしていると、

いつもそう言って声をかけてくれた。


その言葉を聞き、ふと我に返った。



それから忙しくなると、合言葉のように


「あわてないあわてない」

「ひとやすみひとやすみ」


と言うようになった。



当時は、そう言っていたものの、

やっぱり慌てないと仕事が終わらないため、毎日毎日一生懸命仕事をした。



実際、ひと休みなんて出来なかった。



その結果、体調を崩し、強制的にひと休みをすることになった。



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