【第17話】『奇跡のおばちゃん』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
「ひすいの湯まであと10kmだから!」
「22時までに着かないと入れないみたいだよ!」
わざわざひすいの湯まで戻り、聞いてきてくれたらしい。
「大丈夫?」
「歩ける?」
正直、本当にツラかった。
もう足を動かすのがやっとなくらいだった。
でも、
「大丈夫です!」
「本当にありがとうございます!」
そう答えた。
「あと10kmだから、頑張って!!」
おばちゃんはそう言って、僕の肩を叩いた。
「ありがとうございます!」
「頑張ります!」
こんなことってあるだろうか?
たまたま見掛けた人のために、20km以上も離れたところに戻り、
情報を聞いて、また声を掛けてくれる。
おばちゃんは、真っ暗な道の中を、
僕を探しながら車を走らせていたんだと思う。
きっと一度ではなく、来た道を行ったり来たり、
何度も何度も僕を探してくれたんだと思う。
心から感動した。
いや、感激した。
感謝の気持ちが止まらなかった。
「本当にありがとうございます!」
そう言って、僕はまたおばちゃんと別れた。
元気が出た!
しかし、あと10km…。
2時間は掛かる。
この状態では、2時間以上掛かる。
今の時刻は、19時半。
2時間で着いたとしても、21時半。
22時まではギリギリだ。
間に合わないかもしれない。
でも、間に合うかもしれない。
それは、やってみなきゃ分からない。
僕は歩くしかなかった。
足に出来たマメがとんでもないことになっているのが分かる。
足はもう限界。
まともに歩くことはもう出来ない。
本当にツラかった。
ツラくて、ツラくて、仕方がなかった。
でも、糸魚川市街はもう目の前。
日本海は、すぐそこにまで来ている。
僕の旅は終わる。
僕は、これまでのことを思い出した。
今までの旅であったこと、
旅をしようと思ったこと、
仕事のこと、
彼女のこと、
家族のこと、
色んなことがフィードバックした。
真っ暗な道を独り歩きながら、
イヤホンから流れる音楽が、僕の心を大きく揺さぶった。
歩き慣れてない夜道を
ふらりと歩きたくなって
蛍光灯に照らされたら
ここだけ無理してるみたいだ
大人だから一度くらい
煙草を吸ってみたくなって
月明かりに照らされたら
悪いことしてるみたいだ
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