【第17話】『奇跡のおばちゃん』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
悲しみや、寂しさのような感情がこみ上げてきた。
僕は、この場所で起きた出来事は知らない。
でも、大変なことが起き、多くの人が犠牲になったのだと思った。
今、僕の立っているこの場所で、誰かが死んだと思うと、恐怖さえも感じた。
しかし、こうして慰霊碑というカタチで残されている。
決して忘れてはいけないということだ。
起きた出来事も、誰が亡くなったのかも知らないが、
間違いなく、ここで誰かが犠牲になった事実を知った。
僕は、「死にたい」と思ったことを恥ずかしく、申し訳なく思った。
慰霊碑に向かって手を合わせた。
犠牲になった方々にお詫びをした。
そして、どうか見守っていて欲しいとお願いをした。
ここは神聖な場所。
生半可な気持ちで歩いてはいけない。
僕に出来ることは、自分自身に真剣に向き合うことだった。
僕のゴールは距離でも、場所でもない。
自分の限界だ。
そのことを再確認し、また歩き始めた。
更にまた2つのトンネルを越えた。
トンネルを抜けた先には、紅葉が始まり、様々な色をもった山々に囲まれ、
間を流れる翡翠色の姫川、剥き出しになった絶壁の岩肌、
今まで見たことのない景色だった。
そして、また大きな岩が置いてある。
姫川災害復旧記念広場
どうやら、この場所で大規模な災害があったらしい。
この美しい翡翠色の姫川で災害があったようだった。
さっきの慰霊碑は、この災害で犠牲になった人たちのものだった。
山の川側の斜面が、岩肌剥き出しで絶壁になりネットが掛かっている…
そして、この大きな岩…
とても悲惨な災害だったことを容易に想像させるくらい、その光景は生々しかった。
僕はまた、手を合わせた。
トイレもあったので、ここで少し休憩させてもらうことにした。
時刻は17時前になっていた。
辺りはもう、薄暗くなってきている。
さすがに足の痛みも激しくなっていた。
それでも、まだ歩ける。
僕は、前に進もうと決めた。
立ち上がり、またトンネルに差し掛かろうとしたその時、
前方からやってきた一台の車が停まった。
窓が開き、おばちゃんが話しかけてきた。
「これから暗くなるし、この先の道は危ないから、行かない方がいい!」
「少し戻れば、知り合いが宿をやってるから、そこまで乗せてってあげるよ?」
何ともありがたい言葉だ。
しかし僕は、前に進もうと決めた。
「大丈夫です!あと20kmくらいは歩けるので。」
「明日の朝、日本海を見たいんです!」
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