【最終話】『僕の宝物』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
生きているだけで素晴らしいとはよく言ったものだ。
「生きてるだけなんて意味ねぇ!」
そう思っていた。
でもこれは、何もしなくてもいいということではない。
生きているだけで、
ただここに存在しているだけで、
多くのモノに支えられ、
感謝すべきモノに溢れているという意味なんだと思う。
そして、
生きているだけで、
ただここに存在しているだけで、
誰かの支えになり、
誰かの生きる意味になっている。
すべてが繋がっている。
何両にも連なった電車が、1両脱線するだけで、
他のすべての車両は動けなくなってしまう。
それ以上前に進めなくなる。
前に進むためには、切り離すしかない。
それでも、自分よりも後ろに連ねた車両達は、前に進めない。
残されたモノは、それ以上進めなくなってしまう。
だから、走り続けなければならない。
すべてを連れて、前に進み続けなければならない。
自分の荷台は、プレッシャーや責任、
失望や後悔、不安や迷いでどんどん重くなっていくだろう。
独りでは到底引っ張っていけないだろう。
だからこそ、多くのモノと一緒に引っ張り、
引っ張られ、前に進んでいく。
何一つ欠けてはならない。
どんなことも、どんな人も、
自分を動かしている原動力になっているのだから。
そして、辿り着いた次の駅で、
重たくなった荷物を降ろしていけばいい。
前に進むのは、ほんの少しずつでもいいんだ。
ただ、それを繰り返す。
必ず辿り着く場所はあるから。
ゴールは消えない。
いつだってそこにあるんだ。
いつだって自分の中にあるんだ。
僕は探し求めていた答えを見つけた気がした。
前に進むに連れて、視界は開けていく。
大きな標識が現れる。
この先は突き当たり。
国道8号線に変わる。
相模湖から歩き続けたこの道が、すぐそこで終わる。
僕の旅が終わる。
僕は日本海に辿り着き、
目の前に開ける大きな海原を見ながら、
感動的なフィナーレを迎えるのだと思っていた。
泣き崩れ、今まで乗り越えてきたことを思い出し、
達成感に満ち溢れるものだと思っていた。
そして、8号線に突き当たった。
壁に突き当たった。
そう、壁に…。
目の前は開けるどころか、壁だった。
堤防で日本海が全く見えない…。
想像と違い過ぎる…。
更に、海に出れそうな場所も無かった…。
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